地方競馬クラス分けの基礎知識

地方競馬まとめクラス分け

地方競馬のクラス分けはわかりにくい、とよく目に耳に触れます。
各主催者が決定しているクラス分けですが、共通している事項や、基本的な考え方は同じというものもあります。クラス分けに関してどこでもある程度当てはまる事項をまとめてみました。

地方競馬クラス分けの基本は「ABC」の3段階

インターネット時代以前の地方競馬は本場と近隣の場外発売所くらいの独立した商圏で開催していたため、他場のルールを知る必要はほとんどなかったのですが、インターネット発売や現地での場間場外発売が徐々に始まり、各地の地方競馬を全国で買えるようになると、それぞれのクラス分けが分かりにくいとの声が上がっていたようです。

そこで調整が行われた結果、2010(平成22)年4月からの競走番組に関する統一事項がNAR(地方競馬全国協会)より発表され、地方競馬の一般競走(いわゆる「古馬戦」)のクラス分けは「A・B・C」の3つの大区分とすることとなりました。

全国どこでもA・B・C

 3歳(4歳)以上で実施される「一般競走」が全国どこでもA・B・C の3つの大区分となります。ただし、このA・B・Cの区分は、全国同じ基準で格付けされるものではなく、それぞれ競馬場によって異なることに変わりはありません。また、3つの大区分以下の区分(A1・A2・A3…など)についても競馬場によって取扱いは異なります。これは、地方競馬は競走馬の在籍状況がそれぞれ地区によって異なり、限られた在籍状況のなかで魅力あるレースを提供するため、それぞれ独自のルールにより競走番組が組まれているからです。
 どの地区においても大区分の基準については、上位からA:約10%、B:約20%、C:約70%に近づけることを目指します。

地方競馬情報サイト「2010年4月からの競走番組に関する統一事項について」2010.3.25発表より抜粋(全文→こちら)

あくまでクラス分けは各競馬場が行うもので、全国同じ基準でのクラス分けではないことを前提としながらも、表記は大きく「A・B・C」の3つを使い、かつその比率は「1:2:7」を目指すことに統一したというもの。この時点で既に「A・B・C」の大区分3段階制をとっている主催者が多かったのですが、違う文字も使っていた3主催者が見直しを行ったことで統一されました。

主催者2009年度2010年度
帯広ばんえい「オープン」と賞金範囲6段階の計7段階「オープン」と「A1」~「C4」の計11段階
ホッカイドウ「A1」~「D3」の13段階「A1」~「C3」の7段階
高知「A」~「E」の5段階「A」~「C3」の5段階

この中で、帯広ばんえい競馬のみは最上位格の「オープン」は例外的に残され、現在も使用しています。また、アルファベットの次に数字を付して細分化した「A1」「B2」などの分け方は引き続き各主催者に委ねられており、2010年度以降も適宜見直されています。

若馬はクラス分けしない場が多い

古馬に比べると在籍頭数が少ない地方競馬の2歳、3歳馬。そのため、若馬は馬齢を1つの格付けのように扱い、その中ではクラス分けを行わない場が多くあります。

クラス分けを行う場は一般競走にならい、上位から「A・B・C」の大区分でクラス表示を行っています(Cは使わない場もあります)。

一方、傑出した実力の若馬がいると、同世代では相手にならなくなることもあるため、そういった馬は一定の条件を満たせば、全馬が古馬のクラスへ移る前から飛び級させるルールを持っている場もあります(この場合、自己条件は古馬のクラスとなっても、馬齢限定の競走には引き続き出走できます)。

「獲得本賞金」が評価の指標

地方競馬では勝利だけではなく、入着(掲示板内)も含めた獲得本賞金をクラス分けの指標とすることが一般的です。

これにより、一定の指標に基づいた馬ごとの評価が明確になり、個々の序列化がしやすい利点があるほか、積み上げた成績に基づき好成績の多い馬が上位に来る仕組みとなっています。

一方で賞金を指標とすることで、勝たなくても入着することによりクラスが上がるというケースも一般的に見られます。

JRAが基本的に勝利数に基づく勝ち上がりでのクラス分けであるため、入着でもクラスが上がる点に違和感を感じる意見を古くから見かけます。

しかしJRAと違い、地方競馬は来歴の様々な馬が集まって構成され、また在籍頭数も多くないため、生涯勝利数のような単純な指標で序列を付けてしまうと、現状の力関係と全く釣り合わない序列ができあがりかねないという構造的な事情があります。

そのため、賞金による評価は、馬を細かく評価して指標の近い馬を集めることにより、競馬の魅力の一つである予想の楽しさを保持しようという精神に基づくものであり、地方競馬の大きな個性です。

一方で、在籍場によって賞金の格差が大きいこと、また高齢馬が若馬の頃に獲得した賞金を現状の評価に当てはめることが果たして適切なのか、など本賞金をそのまま使うことにはやや無理がある部分もあります。

そこで、クラス分けをする際は獲得本賞金額を基準としつつも、出走履歴の

  • 所属がどこで
  • いつ
  • どの競馬場の
  • どんなレースで
  • 何着か

といった要素を点検し、それに応じてレースごとに賞金を換算したり、計算から除いたり、固定値を上乗せされるなどされた「番組賞金」「格付賞金」などと呼ばれるポイント的な数値を用いてクラス分けを行っているケースが大半となっています。また、生涯成績ではなく、評価の対象期間を一定期間に絞ったり、馬齢に応じて計算式を変えるなどのケースがあります。

このルールが主催者ごとの実情や出走馬確保の方針に合わせてそれぞれで作られているため、移籍によって異動前と異動後でクラスが大きくズレたり、同じ場にいても突然上位級の馬が下位級へ降級するケースが起きる最大の要因となっていますが、そのギャップが時に目を引く要素となることもあります。

なお、例外として南関東地区、兵庫県競馬の3歳戦、一般戦は賞金ではなく独自の「ポイント制」による格付を採用しており、過去履歴を考慮した当初格付を行ったうえで、勝てばクラスが上がることを基本に設定されたポイントを加算する仕組みを使用しています(当該項でご紹介します)。

また、ホッカイドウ競馬の2歳、3歳条件には「未勝利」というクラスがあり、いくら入着を重ねても勝たない限り、賞金に応じた上位クラスや競走には行けない仕組みを持っている場もあります。

絶対評価と相対評価

各馬の序列が決まるとクラス分けを行うことになりますが、これにも「絶対評価(絶対クラス制)」と「相対評価(相対クラス制)」の2種類があり、主催者によって手法が異なっています。

絶対評価
(クラスの定義に当てはまる評価の馬をそのクラスに所属させる)

(例)
「格付けは出走申込時の番組賞金に応じて以下の通りとする」
A級:番組賞金500万円超
B級:番組賞金300万円超500万円以下
C級:番組賞金300万円以下

相対評価
(各クラスへの割り当て比率に応じて馬を配分する)

(例1)
「登録馬の各クラスへの配分はA級:B級:C級=1:2:7とする。順位は出走申込時の番組賞金順とする。」
申込馬が500頭いる場合は
A級=上位50頭(1位~50位)
B級=続く100頭(51位~150位)
C級=残る350頭(151位~500位)

(例2)
「フルゲート12頭のレースを30レース行う。A級:B級:C級=1:2:7となるよう出走馬を格付けする。順位は出走申込時の番組賞金順とする。」
申込馬が360頭いる場合は
A級=上位36頭(1位~36位)
B級=続く72頭(37位~108位)
C級=残る252頭(109位~360位)

絶対評価の場合は成績と連動するため、どうすれば昇級かという点も明確でわかりやすいですが、出走頭数や転出入によってクラスごとの頭数がいびつになったり、そのままでは上級に馬が集まって行くため、適時定義の変更や降級などにより調整する必要があります。

一方、相対評価は登録した馬の中で一定の割合に当てはめクラス分けを行うため、出走する中で評価の高い馬を上級戦に集めることができ、また、設定したレース数に合わせて馬を配置しやすい反面、毎回の登録頭数や登録馬の持つ格付けの評価値の偏差に応じて相対的に格付けが上下することから、中位付近にいる馬は直近成績と無関係に在籍クラスが動いてしまう恐れがあります(登録頭数が少ないと格付けが上がり気味に、多いと下がり気味になる)。

絶対評価はJRAも使用しており、地方競馬も現在の主流は絶対評価ですが、岩手競馬、金沢競馬は相対評価でのクラス分けを行っています。また、帯広ばんえい競馬の2歳戦は成績上位と下位の競走の間でばんえい重量(荷物の重さ)に差を付けるため、相対評価で出走馬をクラス分けし、そのクラスで適用する重量を決めています。

「クラス」の下には「組」がある

JRAの条件戦では出走できるクラスが指定されており、陣営は馬の在籍クラスに設定された走りたい場、距離のレースを選ぶようになっています。

一方、頭数が少なく力量差も見えやすい地方競馬では、なるべく力差が出ないようなレースにしたいという意図から、評価の近い馬同士を集めるために、クラスの中でもう一段階クラス分けしたような「組」を作っており、基本的には「組」を基準にレースを組んでいます。そして、

  • 競走への出走条件を組単位で付け、出走できる競走を実質固定する
  • 組や賞金の範囲を定めて距離が違う競走を複数用意し、その中から希望できる
  • 組ごとの競走を設けた上で、別にクラス全体を対象とした違う距離の競走を用意し、そちらも希望できるようにする

などの方法を取っています(上記は一例)。出走条件の設定は各主催者でさまざまで、長年の開催を踏まえて蓄積してきたスタイルや個性が強く出ています。

組分け方法はクラス内を評価値に並べ、それを上位から均等に割った相対評価が一般的ですが、選抜戦がある場合は、先に選抜馬を別組化して外した上で残りを均等になるように割るケースもあります。

各地方競馬ごとの組分け方法については、それぞれの地方競馬のページをご覧ください。

昇級

強い馬はクラスを上げてレベルの高い馬同士で競わせるのは地方競馬も同じです。勝利や上級条件に入る賞金・ポイントを獲得した段階で上位クラスへ昇級します。ただし、地方競馬の場合は上位クラスへの編入条件が主催者、在籍クラスによって違いがあるため、JRAの条件馬のように1勝すれば上位クラスとなるケースはあまりありません。

降級

JRAでは2018年まで行われていた4歳馬の収得賞金(=クラス分け判定用の賞金)を半額にする降級制度が廃止されたことで、在籍クラスが下がるケースがなくなりました。

一方、地方競馬では出走馬を能力に釣り合うレースへ出走できるようにするとともに、クラスごとの所属馬をレース編成に適した規模に調整するため、定期的に行われる降級制度が全主催者で取り入れられています。

降級制度は時期、頻度、ルールともに各主催者ごとで全く異なりますのでそれぞれの地方競馬のページをご覧ください。

まとめ

クラス分けは興趣あるレース編成のための根幹であり、特に移籍馬が主体を占める地方競馬主催者にとっては、クラス分けと昇降級制度が、より魅力ある競走馬を確保するための重要な営業施策ともいえます。

潤沢と言えない資源をうまく活用するために制度が構築されている実情もあり、なかなか単純明快にならない点は否めませんが、読みこめば読み込むほど、各主催者の営業戦略的作り込みや熱意の度合いが垣間見えるだけでなく、霧が晴れたかのようにレース体系が見やすくなること、請け合いです。

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